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P.F.ドラッカー『現代の経営』①

“マネジメントの父”と呼ばれるP.F.ドラッカー(1909-2005)の代表作『現代の経営』<ダイヤモンド社>より名語録をご紹介していきます。

“マネジメントとは、事業に命を吹き込むダイナミックな存在である。そのリーダーシップなくしては、生産資源は資源にとどまり、生産はなされない。彼らの能力と仕事ぶりが、事業の成功さらには事業の存続さえ左右する。マネジメントこそ、企業がもちうる唯一の意味ある強みである” (上巻P2)

経済的な成果をあげられなければ、マネジメントは失敗である。消費者が進んで支払う価格で望む財やサービスを提供できなければ、失敗である。自らに託された経済的資源を使って、その富の創出能力を増大させることができなければ、あるいは少なくとも維持することができなければ、失敗である” (上巻P8)

成長可能な資源は人的資源だけであることが明らかである。われわれが利用できる資源のうち、成長と発展を期待できるものは人だけである” (上巻P15)

“人の成長ないし発展とは、何に対して貢献するかを人が自ら決められるようになることである” (上巻P16)

“経営者を誤ってマネジメントすることによってあげた業績は幻想にすぎず、資金を食いつぶしたにすぎない。人と仕事を誤ってマネジメントすることによってあげた業績も、同じく幻想にすぎない。コストが上昇して競争力が失われるのみならず、階層間の対立と闘争をもたらし、そもそも企業が活動できなくなる” (上巻P21)

“経済はマネジメントの活動に制約を課す。同時に機会を与える。しかし、経済はそれ自身、事業が何であり、何をするかを決定しない。「マネジメントは、事業を市場に適応させるだけである」という説ほどばかげたものはない。マネジメントは、市場を見つけ出すとともに、自らの行動によって市場を生み出す” (上巻P42)

経営の名語録(14)

危険な状況で不確実性がきわめて高いとき、人はどうしてよいかわからなくなる。そんなときに、当てずっぽうしか言えないなどと認めるのは、懸かっているものが大きいほど許されない。何もかも知っているふりをして行動することが、往々にして好まれる” D・カーネマン著 『Fast&Slow』より

有事におけるリーダーの心構えで最も重要なことは何でしょうか?ノーベル経済学賞受賞者のカーネマン先生はその答えを「自信に満ちあふれた態度」と述べています。

有事の際、人の思考は本能・直感・衝動に支配され、論理や冷静さは隅に追いやられがちになります。その結果、思考は極端な方向に偏り、態度を曖昧にする人物よりも、白黒をはっきりと一刀両断してくれる人物に信頼を寄せることになります。

平時であれば、事実を丹念に積み上げ、様々な可能性を示しながら慎重に物事を前に進めるリーダーが好ましいのかもしれませんが、今のような有事においてはそのようなリーダーは優柔不断と思われ、求心力を失う恐れがあります。求心力が失われれば、人々は団結できなくなり、危機の克服が遠ざかってしまいます。

今人々が本能的に求めているのは、毅然とした態度を崩さず、単純明快なメッセージを自信たっぷりに言い切ってくれるリーダーです。実際には不安や焦りでいっぱいでも、そういった感情を棚上げして、果たすべき役割を演じ切る。偉大なリーダーとはストイックな名優のような一面を持っているのかもしれません。

経営の名語録(13)

ここに非常な水泳の名人がいるとする。そしてこの名人から、いかにすれば水泳が上達するかという講義をきくとする。かりに三年間、休まず怠らず、微に入り細にわたって懇切ていねいに講義を受け、水泳の理を教えられ、泳ぎの心がけをきかされる。それでめでたく卒業のゆるしを得たとする。だが、はたしてそれだけで実際に直ちに泳ぎができるであろうか。(中略)講義をきくだけでは泳げないのである。”松下幸之助著 『道をひらく』より

皆さまはこれまでにどんな研修を受講してきましたか?会社からの指示で(半ば強制的に)受講した研修もあれば、身銭を切って能動的に受講した研修もあったでしょう。その中には面白くて前のめりになって聞いたものから、眠気をこらえるのに必死だったものまで、クオリティーも様々だったはずです。その上で質問です。「良い研修とはいかなるものでしょうか?」

これまで研修講師として500回以上の現場を踏んできた私の意見は、“良い研修とは良い行動変化をもたらすものである”ということです。つまり、その場ではどんなに面白くて役に立ったと思っても、その後の実務や実生活に変化が起きなければ良い研修とは言えないということです。

私が考える研修講師の本質的な役割は、新たな気づきを与え(Inspiration)、魂に火をつけ(Motivation)、望ましい行動変化を促す(Action)の3つに集約されます。そして研修の現場でできることはここまでです。その研修を真に実りあるものにするためには、聞き手が実際に行動しそれを習慣化しなくてはなりません。つまり、研修はその場だけで完結するものではないのです。

研修の本質は研修の次の日の行動にあり」という私が作った格言があります。今後は、研修後のAction(具体的な行動変化)を念頭に置いて講義を聴いてみてください、より深く生産的な学びが得られることをお約束します。

経営の名語録(12)

仕事ができる者は、多くのことで成果をあげなければならないことを知っている。だからこそ集中する。集中するための原則は、生産的でなくなった過去のものを捨てることである。” P.F. ドラッカー著 『経営者の条件』より

コロナウィルスは、私たちの生活やビジネスに大きな変化をもたらしています。世界中のあらゆる場所で、ムダ・ムリ・ムラがあぶり出され、これまでの価値観や成功体験が揺さぶられています。

そしてそう遠くない将来に、私たちはコロナ終息の安堵感と未来に対する危機感、焦燥感が入り混じった奇妙な感覚にとらわれることになります。ホッとしたのもつかの間、すぐに「もう時代は変わったよ。君は何をどう変えていくの?」という問いを突きつけられることになります。皆さま、準備はできていますか?

本当に自分自身が「変わる」ためには、「何かをやめる(捨てる)」ことと「何かを始める」ことをセットで行わなければなりません。始めることは楽しくて前向きなアクションですが、やめることはその反対です。しかし、コロナ後の新しい時代を軽快かつ俊敏に歩んでいくためには、もう通用しない“古いもの”を勇気をもって捨て去る必要があります。

ドラッカーが言うように、捨てることで集中が生まれ、集中することで成果が生み出されるのです。今、私たちに求められているのは、「足し算の意思決定」ではなく「引き算の意思決定」なのではないでしょうか。


経営の名語録(11)

もし仮に自分が店をたたんでしまった場合、お得意先が「惜しい店がやめたな」と残念がってくださるかどうか、それだけの商売を自分が今しているかどうかといったことを反省、検討してみてはどうでしょう” 松下幸之助著 「商売心得帖」より

これは、企業の存在意義について深く考えさせられる究極の問いです。

自社について考える前に、まずは皆さまにとっての「やめられては困る」企業を具体的に挙げてみてください。

私も「やめられては困る」企業を書き出してみたところ、いくつかの特徴があることに気付きました。

特徴①:その企業が提供している商品・サービスは、抱えている問題を具体的に解決してくれたり、欲求をちゃんと満足させてくれる。

特徴②:その会社が提供している商品・サービスがなくなると、生活や仕事に支障がでて、なおかつ代わりのモノがなかなか見つからない。

特徴③:その商品・サービスの価格は適正で支払うことができる水準である。

特徴④:買いたい時に、ストレスなく買える。

特徴⑤:離れづらくさせる仕掛けがさりげなく施してある。

いかがでしょうか?皆さまが挙げた企業も上記のいくつか(あるいはすべて)を満たしているのではないでしょうか?非常に基本的なことですが、この5つの特徴を磨けば磨くほど「やめられたら困る」と思う人が多くなり、その結果売上げは増え、収益性も高くなっていきます。

以上を踏まえて次の問いを冷静かつ客観的に考えてみましょう。「自分の会社がビジネスをやめたら、困る人は誰か?そしてその人たちはなぜ困るのか?

もし、結果が残念なものとなってしまっても落ち込む必要はありません。改善の道筋は上記の5つの特徴に示されています。顧客から目を離すことなく1つづつ丁寧かつ迅速にPDCAを回しましょう。そして「世間に必要とされる、なくてはならない企業」に進化していきましょう。

経営の名語録(10)

適応力のある組織は、環境を利用してたえず組織内に変異、緊張、危機感を発生させている。あるいはこの原則を、組織は進化するためには、それ自体をたえず不均衡状態にしておかなければならない、といってもよいだろう” 戸部良一他著 『失敗の本質-日本軍の組織論的研究-』より

諸行無常」という言葉があります。この言葉は一般的には、世の中は虚しいもの、切ないものなのだと悲観的に解釈されがちですが、その本質は“万物は常に変化し続けており、少しの間もとどまらない”、つまり“変化こそが常態”ということなのです。

それに対して人間は、安定を本能的に望み(「現状維持バイアス」)、一度手に入れたものにしがみつき手放さない気質(「執着」)をもっています。

ビジネスは人間が集団で営む行為ですから、その集団を何もせずに放っておけば、人間の本質に従い、硬直的で柔軟性のない時代遅れな状態になっていくのは自然の成り行きなのです。

つまり、諸行無常の世界の中で企業を永続繁栄させるカギは、そこで働く人々全てに諸行は無常であることを認識させ、常に変異、緊張、危機感を持たせ続けるというある意味「不自然な行為」を徹底してやり続けられるかどうかにあるのです。

はじめは不自然と思われた行為も、繰り返し繰り返しやり続けることで、いつの間にか習慣化し自然にできるようになってきます。人に指示する前に、まずはリーダー自らが率先して範を示し、キツいことをやり続ける姿を見せることから変革を始めてみてはいかがでしょうか。

経営の名語録(9)

私が知遇を得た偉大な指導者にほぼ共通している事実は、彼らが偉大な読書家だったことである。読書は精神を広くし鍛えるだけでなく、頭を鍛え、その働きを促す” リチャード・ニクソン著 『指導者とは』より

行動制限が続いているこの時期、運動不足の解消と同時に読書不足の解消にも取り組んでみてはいかがでしょうか?TVやネットを漫然と1時間視聴することと、良書に1時間向き合うこと。物理的には同じ1時間でもその密度や豊かさには雲泥の差があります。

読書をするといいことがたくさん起きます。その一つに語彙が豊富になることがあります。語彙が豊富な人は、自分の思いや考えを的確に表現することができますし、ビジネスで重要な“刺さる言葉”を生み出すこともできます。反対に語彙が貧弱な人は、相手に自分の思いを意図した通りに伝えることができず、イライラ・モヤモヤがつのり、自分だけでなく周囲の生産性まで落としてしまいます。

テレワークが加速すればするほど、語彙が豊富な人の存在感が増すことは目に見えています。だからこそ今から読書によって語彙力を鍛錬していく必要があるのです。

それでは、どんな本を読むべきなのでしょうか?本日は「自分の存在意義について深く考えながら語彙力が鍛えられる本」を3冊ご紹介したいと思います。

『代表的日本人』 内村鑑三著 岩波文庫

『修身教授録』 森信三著 致知選書

『自省録』 マルクス・アウレリウス著 岩波文庫

いずれも“朝に道を聞けば、夕べに死すとも可なり”という表現がぴったりな気迫あふれる本です。背筋を伸ばしてお読みいただくことをお勧めします。

経営の名語録(8)

既成の観念にとらわれることほど、人の考えを誤らせ、道をとざすものはない。(中略)常識を破る、そのことでしか会社の永続はない。私はずっとそう確信してやってきた” 本田宗一郎著 『やりたいことをやれ』より

常識を破るとは、それまでの考え方、やり方、勝ちパターンを否定して変革を起こすことですが、言うは易し行うは難しで、いざ断行しようとすると様々なハードルや抵抗勢力が現れ、結局頓挫し、元の木阿弥になってしまう例は枚挙にいとまがありません。

ではなぜ変革は頓挫しがちなのでしょうか?

行動経済学的に考えると、その原因は「現状維持バイアス」で説明できます。現状維持バイアスとは、人には変化よりも現状維持を望む強い保守的傾向があり、それによって非合理な意思決定をしてしまうことを言います。そして、その根底には変化によって生じる損失やリスクに対する過度な恐怖心が存在します。もっとシンプルに表現すれば「変わらなくっちゃ。だけど怖い。だから今のままでいいや。何とかなるでしょ。」となります。

経営の本質は「変化適応」です。しかし、人には「現状維持」バイアスがかかっています。実はこの矛盾をしっかりと認識することが変革を成功させるための第一歩なのです。この認識なくして合理的な策を講じることはできません。

日本電産の永守CEOは4/21の日本経済新聞でこう語っています。“50年、自分の手法がすべて正しいと思って経営してきた。だが今回、それは間違っていた。テレワークも信用してなかった。収益が一時的に落ちても、社員が幸せを感じる働きやすい会社にする。そのために50くらい変えるべき項目を考えた。反省する時間をもらっていると思い、日本の経営者も自身の手法を考えてほしい

永守さんほどの経営者でも常識を破ろうと動き始めています。コロナ・ショックを乗り越えて永続していく企業の条件は、「勇敢なる自己否定」なのではないでしょうか。

経営の名語録(7)

人間はほんとうは偉大なものである。真実に直面すれば、かえって大悟徹底し、落ち着いた心境になるものである。だからおたがいに、正しいものの見方を持つために、素直な心で、いつも真実を語り、真実を教え合いたいものである” 松下幸之助著 『道をひらく』より

危機発生時の情報発信の鉄則は、正しい情報(真実)を分かりやすく迅速に伝えることですが、すべてのリーダーがこの鉄則に従って行動しているとは到底言い難いのが実情です。

ではなぜ、リーダーはこの鉄則を守らず情報を歪めて伝えてしまうのでしょうか?

それは、情報の受け手に対する優しさや思いやりといったポジティブな理由もありますが、リーダーが受け手の理解力の軽視することや(どうせ分からないんだから‥)、リーダー自身の保身や優柔不断といったネガティブな理由もあります。

危機を乗り越えるためには、人々が一致団結して事に当たらなくてはなりません。団結の要は相互信頼です。信頼は正しい情報の共有なくしては成り立ちません。情報を歪めて伝えれば、衆知は必ずそれを見破り、そこから不信の連鎖が広がります。団結なき集団にもはや危機を克服する力はありません。

松下幸之助はこうも言っていいます。“かわいそうとか、つらかろうとか考えて、真実をいわないのは本当の情愛ではあるまい。不幸とは、実相を知らないことである。真実を知らないことである

相手のことを本当に大切に思うのであれば、リーダーは、正しい情報を分かりやすく迅速に、包み隠さず伝えるべきです。勇気をもって真実を伝え、受け手の叡智を信頼するべきです。コロナ危機が拡大している今だからこそ、リーダーには冒頭の言葉を実践する胆力が試されています。

経営の名語録(6)

テクノロジー自体は悪いものではない。もしあなたが、自分の人生に何を望むかを知っていれば、テクノロジーはそれを達成するのを助けてくれる。だが、人生で何をしたいのか分かっていなければ、代わりにテクノロジーがいとも簡単にあなたの目的を決め、あなたの人生を支配することだろう” ユヴァル・ノア・ハラリ著 『21 Lessons』より

「スマホを始めとするデジタルテクノロジーは諸刃の剣であり功罪両面がある」という主張を声高にしたところで、多くの人は立ち止まって考えることなどしないでしょう。なぜなら、私たちはテクノロジーの多大な恩恵を受け、豊かな生活を享受しているからです。しかし、本日はあえてテクノロジーの負の側面について考えてみたいと思います。

コロナウィルスとの戦いが長引けば長引くほど、疲弊し、将来を悲観する人が増えていきます。心の力が弱まれば、批判的思考力は衰え、通常であれば受け入れることのない主張や情報を受け入れてしまいがちになります。

特にスマホに依存している人は要注意です。スマホの向こう側には様々な意図を持った集団があなたの行動を変えようと精力的に活動しています。人は、同じメッセージに繰り返し触れると、無条件にそれを信じてしまう傾向があります(これを「単純接触効果」と言います)ので、スマホのヘビーユーザーは情報操作される危険性がより高くなる訳です。

不安を解消するために情報収集することは否定されるべき行為ではありませんが、その結果、(知らず知らずの間に)あなたの意見や行動、ひいては人生の目的までもがテクノロジーに支配される事態は避けたいものです。

機械ある者は必ず機事あり。機事ある者は、必ず機心あり” 老子     (機械に振り回されては、人間の心の不在を招く)